ストロングゼロで夢を見る

公園 わたし
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 体にも良くないって分かっているのに、走っても走っても追いかけて来るどんよりとした雨雲を忘れたくて、気付けば買い物かごに入れていたストロングゼロ。

最近、持病の調子も悪く、酒自体を控えていた。
飲みたいという気持ちにもならず、時折、夫の晩酌に付き合うにしてもグラス一杯程。
なのに、とうとう仕事帰りに公園で飲んでしまった。

真昼間の公園。
午前勤務だった昨日、やっぱり私は私でしかなく。
大きなミスをしでかした。
振られる仕事も難しく、中山さんに質問しに行けば塩対応。

「え?は?ちょっと、何を仰ってるのか分からないんですが。すみませんが、質問するなら相手に分かるようにまとめてからでお願い出来ます?」


 私が彼よりもずっと年輩だから、敬語は崩さないものの、もし後輩だったら怒鳴られていたかもしれない。
彼の前だと必要以上に委縮し、分からないところさえ分からない有様なのにその場ではつい遣り過ごしてしまう。
それでも分からないままだと作業も進まないので、ギリギリのところで行動を起こす。
自分なりに質問事項をまとめ、彼が隣の人と談笑しているタイミングを見計らい、今だーと、勇気を出してみたのだが。
敢え無く、玉砕。
彼のデスク回りの社員達も、チラチラ私に視線を向けているのが分かり、体が硬直する。


「すみません。もう少し考えてみます・・」


 再び彼に聞くことなく退社した。
もう一度、彼のデスクまで行く勇気が持てなかった。

こんな日々が続くならー、やっぱり潮時なのかなと思う。
試用期間満了で、退職でもいいんじゃないか。
その為の3か月なんじゃないか。
雇用する側とされる側とのマッチング期間は、これにて終了。
IDカードの中にいる私と目が合う。
希望に満ちた表情でこちらを見ているのが痛い。



 仕事のある日はいつだって食欲が湧かないけれど、真っ直ぐ自宅に向かう気分になれず、コンビニでハーブチキンとストロングゼロを買った。
流石に職場近くで飲む訳にもいかないので、自転車でちょっと先にある公園のベンチまで行き、休憩した。
専業時代も、こうして嫌なことやモヤモヤすることがあれば、酒を買い込みベンチで飲んだ。
私なりのガス抜きだ。
夏の名残をまとった秋の風を受けながら、プルトップを開ける。
チキンをつまみに、勢い良く外気に触れた炭酸を口に含むと、少しだけ気持ちがすーっと軽くなった。
ロング缶を買ったので、半分くらい飲んだ頃から頭がふわりふわりと軽くなり、中山さんの顔も小川さんの顔もリーダーの顔も、そのすべてが曖昧で実体が無く、しまいには夫の顔まで曖昧になる不思議。

全身がかったるく、真向いーといってもだいぶ遠くにあるベンチに座るカップルの昼間からのいちゃつきをガン見しながら、気付けばバッグを枕に横たわり、うつらうつらとしてしまった。
まどろむー
その心地良いまどろみの中で、私はなりたい自分になっていた。
戻れる場所なんてないはずなのに、確かに私は「あの場所」に戻り、輝いていた。


ストロングゼロで、一瞬の夢を見た。
スマホの時計を見ると、わずか20分程度ー。
起き上がると、真向いにいたはずのカップルは消えていた。







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