ヒアリング

蕎麦 仕事
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「今日、午後は予定あります?お昼一緒にしません?」



 今日も一人黙々と誰とも喋らず仕事をし、退勤するのものだと思っていたのに。
小川さんからランチに誘われた。
最近では、小川さんは派遣さんにべったりで、私に頼む作業はデスクの上かメールでの依頼。
そして単純作業が殆どなので質問をする機会もなく、作業を終えればチャットで報告。
ありがとうございましたとチャットが彼女から返って来る、それくらいのコミュニケーションだった。


「予定、無いです!大丈夫です!」


 嬉しくなって、まるで飼い主に餌を与えられた犬のように尻尾を振ってしまう。
昼のチャイムが鳴るのが待ち遠しく、その日に与えられた作業も少なかったこともあり、時間が経つのが遅く感じられた。
ようやく昼になり、PCをシャットダウン。
外にランチかな、とそわそわしていると小川さんから社食に行こうと誘われた。
彼女は珍しくお弁当持参だった。
私は自宅で食べる予定だったので、仕方なく社食メニューの中から一番安いかけそばを頼み、彼女が先に座る窓際のテーブルへと移動した。


「ごめんなさい、誘っておいて社食なんて。外が良かったですよね?」


「いえいえ!こっちの方が安いし。移動時間が勿体無いし。」


 仕事では期待に応えられなかったので、こんな時くらいと彼女が欲しいだろうリアクションを返した。


「お弁当ですか。美味しそうですね!ご自分で作られるのですか?」


「まさか。私、料理全然出来ないんです。母が時々作ってくれるんです。情けないですよね。」


「そんな!お母様も喜んで作られていると思いますよ!私も今は高校生の娘がいて、毎日お弁当作ってます。」


 そして、この日も子の弁当の余りが冷蔵庫にあり食べる予定だったのだがーそんなことは勿論口にしない。
お互い、軽い雑談をし楽しい時を過ごした。なんでだか、彼女は私の娘でもいいかもしれない年齢なのに、お姉さんのように感じてしまう。


「仕事、どうですか?何か、困ったこととかありますか?」


「・・・困ったこと・・は、今はありません。以前は本当に難しくて、時間も掛かっていましたし。小川さんに質問ばかりして申し訳なかったと思っています。」


「そんな。教えるのも私の仕事なんで。でも、シフトが少なくなってしまって大丈夫かなと。」


 大丈夫ではない。
実は、転職活動をしている。
その事実をついぽろっと打ち明けてしまった。
だが、彼女は驚くでもなくむしろ納得したように、


「そうですか。そうですよね。お子さんもう大きいし、もっと働きたいですよね。」


 引き留められるかと思ったのに、肩透かし。それが少し寂しかった。
そしてそんな感情が湧く自分の未熟さに、やっぱりここは自分の居場所ではないと改めて思うのだ。



 

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