土用の丑の日

うな重
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 今日は、土用の丑の日。
事務所用にうな重をだいぶ前から注文していたことを忘れていた夫。
吉田さんと犬塚さんと食べる予定だったのだろう。
それが、吉田さんが実家に帰省したことと犬塚さんの体調不良により、私と子に彼らの分が回って来た。

夫は午前だけ出勤し、昼過ぎにうな重を抱えて帰宅。
子も今日は何の予定もなく家にいたので、久しぶりに家族水入らずで家ランチをすることになった。

鰻ー

 重箱を開けると、キラキラ鰻が輝いている。
それなのに、まったく食べたいと思わない。
夫は私がもっと喜ぶと思ったのだろう、その反応の薄さにご機嫌ななめ。


「嬉しくないのか?」


「いや、嬉しいよ。ありがとう。」


「花子は?うまいか?」


「うん!美味しい~!これっていくら?」


「子どもがそんなこと気にするな。」


 何よそれ。
元々、家族の為に注文した訳でもない、たまたま要らなくなった分が回って来ただけ。
それなのに、恩着せがましい夫に腹が立つ。
それに、最近の私には重い。正直、ざるそばでいい。
スタミナを付けなくてはーと思う一方で、そんな気分になれない。
鰻をほんの少し口に入れただけで、胸がムカムカしてしまう。


「なんだよ?うまくないのか?」


「いや、ちょっと夏バテかも。」


「これ、いくらすると思ってるんだよ。普通、食べられないぞ。」


 うざい。
数年前の私なら喜んだだろう。ちくわをかば焼きにして子と食べていた頃の私なら。
今は、まったく嬉しくない。
このズレは何だろう。
何口か口に入れたところで、胸やけのような、何か喉元に競りあがってくるような違和感を感じ、箸をストップさせた。



「ごめん、もう無理。ちょっと体調が悪いから。花子、食べる?」


「え?いいの?でも全部はさすがに無理かも。パパ、一緒に食べない?」


「ったく、あんたは貧乏舌だな。」



 今の私のメンタルだとかを慮る心がない夫にうんざりする。
いや、もしも夫が私を気遣い、私の為にこの鰻を買って来てくれたのなら無理してでも平らげただろう。
そうではない、誰かの為に買ったものーそれがたまたま要らなくなって回って来ただけ。それを恩着せがましく押し付けられたところで、私の心は冷める一方。

 夫は鰻を食べ終えると、フイっとどこかへ出て行った。
私の態度が気に入らなかったのだろう。
子は自室で相変わらずスマホ。
シンクに投げ入れられた空の重箱にこびりついた米は、どんどん乾いていく。





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