我が家の朝

目玉焼き 家族
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 今朝、起きた途端、喉が痛いと子が訴えた。
もし熱があれば、検査をしに一緒に病院へ行く必要があるし、パートも休まなくてはならない。
だが、体温計の表示は36.5℃といたって平熱。
子は、なんだか違和感ーと言いながらも、熱は無いので学校へ行く準備を始めた。

前髪命ーとばかりに、ヘアアイロンで何度も何度も髪を挟んでは、納得いく仕上がりになるまで朝の時間を費やす。
最近ではヘアセットをしながら、パンを口に放り込み朝食を済ます。
夫には、和食。子はパン。
フライパンに落とした二つの卵。
今日もうまく焼けなかった目玉焼き。それだけで一日のスタートを切るモチベーションが下がってしまう。


「おい、学校に何しに行ってるんだ?そんな化粧してみっともない。」

 
 朝食を取りながら新聞に目を通していた夫が、メイクを終えた子の顔をチラリと見上げ、眉間に皺を寄せる。
夫の小言が増えた。
彼自身の仕事がうまくいっていないせいなのか。
私に掃除が行き届いてないことや、夕飯の手抜き具合に嫌味を言う頻度も増えた。


「うるさいな。」


 子が、夫を睨みつける。朝から勘弁してくれーと、私は話題を変える。


「そうそう、お義父さんから敬老の日のお礼の電話があったわよ。あなたとも話したかったみたいだから、時間出来たら電話して。」


今年も嫁としての義務を果たしましたよーと暗に夫に報告をした。
だが、夫は興味無さげに、フンと鼻を鳴らすだけで、再び日経新聞に目を落とした。


「行って来ます。」

 子に、弁当を持たせる。
卵焼きにブロッコリー、プチトマトにきんぴらに冷食のから揚げ。
すっかり、冷食を使うことにも抵抗が無くなった。
働いているのだからーを免罪符に、家事はどんどん手抜きになっていく。
それでも、最低限の家事ー
仕事前に、朝食を作り洗濯をし、掃除をするだけで疲れ果ててしまう。弁当くらい、楽させてくれーと思う。


「俺も、弁当要る。」


 夫にも久しぶりに弁当を用意した。
冷食しか無い日に限って、と思ったけれど。どうでもいい。
予想通り、弁当の中身を確認した夫はうんざりした顔をする。


「これ、揚げないの?冷たいまま?冷食だらけじゃないか。」


「保冷剤の代わりになるの。お昼には丁度良く解凍されているから大丈夫。」


「俺はいいけど、花子にこんなもんばっか食わせるのどうなんだよ。育ち盛りだろう。」


「花子は喜んで食べてるから。むしろ、冷食の方がー」


「食育って母親としての義務だろう?あなたの実家はどうだったか知らんけど、俺はちゃんとしたもん食って育った。花子が馬鹿舌になったら、俺らが笑われるんだよ。」


「じゃあ、あなたやってよ!」


 時計の針を見ると、パートに出る時間が迫っており苛立ってこんな言葉を夫に向けてしまった。
自営の夫は、定時など関係ない。むしろブラック企業並みに働く日々ではあるけれど、朝は割とのんびりで、私の方が早く自宅を出るのだ。
のんびり食後の珈琲を飲みながら、嫁の作った弁当にダメ出しーそんな時間があるならあんたがやってよ!という心の声がついに出た。


「ちょっ!お前ー・・・」


 何か言い掛けた夫だが、代わりに大きなため息をつくと、黙って冷食だらけの弁当を鞄に入れた。
そして、お互いに一言も言葉を交わさないまま、私は自宅を後にしたのが今朝のこと。


 今日もしんどい思いをしてパートをなんとか昼まで終え、帰宅すればシンクには朝のままの汚れた食器やフライパンが残っているーそう思い、家の中に入ったのだが。
そんな予想を裏切って、シンクは空っぽ。
水切り籠には綺麗な食器やコップ、フライパンも綺麗に洗ってキッチンの立て掛けスペースに伏せられていた。
信じられないことが起きた。
どうやら夫がやってくれたらしい。
どういう風の吹き回しか?そして、それを素直に「ありがとう」と言えない私がいる。
ボタンの掛け違いは、とうの昔から。
家族の形、夫婦の形はそんな簡単には変えられない。





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