実母と電話した後はいつも鬱

天秤 家族
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 母の日当日、私の携帯に着信があった。
用事をしていたのと、夫が家にいたので何となく後回し。
夫がいると、電話し辛い。
母も、夫と話したくないから家電に掛けて来ることなんて滅多にない。



折り返すのにも気を遣う

 月曜になり、電話を折り返そうとし時計を見る。
確か、月曜の午前中は眼科の通院があったような。後で掛けよう。
思い直し、洗濯掃除などの家事を終え、昼くらいになり思いとどまる。
昼食の時間だ。これから食べるところだったら、特に麺類だったら伸びてしまう。
そんな風に、ずるずると後回しにして夕方になってしまった。
実母なのに、電話の折り返しにすら気を遣ってしまうのだ。


3分で切れない

「もしもし、私。電話くれた?」

「あぁ。ちょっと待って!」

 受話器の向こうでバタバタと音がする。
恐らく、長電話のスタンバイなのだろう。何か用事をしているのなら用件だけ伝えてすぐに切ればいいのに。
その用件はいつだって前置きで、いつも言いたいことは別にあるのだ。

「あぁ、ごめんごめん。ちょっと今煮物作ってたところ。そうそう、母の日ありがとう。早速だけど買わせて貰ったわ。」

「何買ったの?」

「靴を買ったわ。長靴。丁度、雨用の靴が欲しかったの。」

「そう。良かった。」


 ここで、お互い気持ち良く電話を切れたら良いのだけれど、そう一筋縄ではいかないのが母なのだ。
弟から、5万もする革のバッグを買ってもらったと言う。バイト暮らしの弟。勿論、実家にパラサイトしており家に入れてるお金なんて3万程度なのだから、それくらいして当然だと思う。
しかし、母はとても嬉しそうに報告する。


「そんな高い物なんて要らないよって言ったんだけどね。自分の為に貯金しなさいって言ってるのよ、私は。本当に、あの子は根が優しいのよね。」


「そうなんだ、良かったね。」


 わざわざプレゼントの値段を言う必要がある?
なんだか私の1万が少ないと言われた気がした。
ふと、パチンコで稼いだお金で買ったのでは?と思ったが、それを言ったら母は烈火のごとく怒る。
私からは1万円が精一杯。何となく面白くない気持ちで流す。



締め括りは婿の悪口

 母との電話ー、コロナ禍前ならランチやお茶での締めくくりは、大抵、私の夫や義実家の悪態で終わる。
そんな関わりもない癖に、私から情報を引き出してはこき下ろす。
義母が脳梗塞になってからは、キラキラした老後生活を送れなくなった義母に対する嫉妬心は薄まったようだけれど、その分、夫に対してのアタリは強くなった。

「あんた、向こうのお母さんにはちゃんと母の日したの?」

「したよ、花とギフトセット送った。」

「そう、なら安心したわ。そういうのちゃんとしないとね。非常識だと思われるから。どんな育て方されたのって言われたくないしね。そうそう、姉さんなんてN恵の旦那から花束貰ったらしいわよ。本当に優しい旦那と結婚したわよね。」

 N恵の旦那が人当たりが良いのは以前からよく耳にしていたけれど、それは伯母だって仲良くしようと努めて来た賜物だ。
孫の面倒もよく見て、休日には一家を食事に招き、彼女らの手伝いを頻繁に請け負っている伯母には、いくら義理の息子であっても恩義はあるだろう。
なのに、母は自分の態度はさておき、して貰うことばかりに注目するのだった。


「あんたの旦那からは、何もして貰ったことないわね。姉さんに言われたわよ。薄情な男と結婚させたわねって。」


「・・・」



 今回は母の日を切り口とした、夫の悪口。
いつもそうなのだ。
そして、母が言うこともあながち間違っていない分、苦しい。
確かに夫は、私の実家に対して優しくない。愛想も悪いし無関心。
引っ越しだって手伝ってくれなかったし、正月やその他祝い事もスルー三昧。
私がこっそり虎の子からかき集めたお金でお祝いしていることなんて知らないし、そもそもお祝いするという概念すらないのだ。

「本当、あの子にとっても残念な兄さんだわ。」

 溺愛する弟にとっても、相談出来る優しい兄ーそんな理想の兄になりそうな男と結婚して欲しかったと何かにつけて言うのだ。

「そうそう、カズヒロさん、今度そっちに行くって言ってる。」


ー今だ、と思い、母に告げた。夫が珍しく私の実家に行くと言っていたことを思い出したのだ。


「いいわよ、来なくて。」

 あっさりー、そして、ぶっきらぼうに返される。


「どうせ来たって、あの仏頂面でしょ?気分悪いわよ。お茶出す気にもなれないわ。引っ越しの時だって顔見せなかったんだから、今更いいわよ。あの人いるとね、疲れるの。何様なのかしら、ずっと思ってたけど、どうせたまに会ってもあの態度でしょう?横柄過ぎて話にならない。」


 引っ越しの手伝いをスルーしたことをいまだ根に持っているのだ。
そして、ここ何年も正月や盆はスルー、電話の一本もない、挨拶すらないことに母は切れている。
そもそも結婚後、数える程度しか顔を出さず、たまに出しても父や母に話し掛けることもなければ笑顔を見せることもなく、ずっとスマホ。
その態度は、私から見てもあり得なかったし、その都度、後から母に文句を言われることに疲れ、段々と夫を誘って実家に行く気にもなれなくなったのだ。


「そうだね。嫌な思いさせたよね、ごめんね。」


「ほんとよ、あんたも見る目が無かったってことね。まあ結婚の挨拶からそんな予感はしてたけど。いずれまともになるかと思ったのにね。残念なことに人って変わらないわね。」


板挟みは辛い

 丸く収める為、娘として謝罪した。
母は気付かなかったけれど、話しながら涙が頬をつたって降りた。

 両親に対しても、腑に落ちない気持ちで一杯なのだ。
なんでだろう。して貰うことばかり。自分達から歩み寄ろうともせずに、こちらから歩み寄ってーしかも何度も何度も腰を低くした上で歩み寄れば満足なのだろう、母は。
ただ、夫はそれ以上に私がコントロール出来る相手ではない。多分、母以上に。
それを母は見抜いてるから、生理的に好かないのだろう。


「あ、宅配来ちゃった、またね。」


 まだまだ話したり無さそうな母だったが、我慢出来ずに電話を切った。
旦那が嫁と母親の板挟みーなんてよく聞く。
そういう場合、夫は黙って嫁を守り、母を諭す。
いくら嫁が悪くても、庇う。それがセオリー。
母に加担し、嫁を責めたとしたら。その男は途端にマザコン男のレッテルを貼られるのだ。


私自身まで否定された気分になる

 夫の悪口。
結婚以来、もう何度も何度も聞いて来た。
それなのに、いまだに辛い。
夫を庇うつもりなんてない。
母の言うことは理解出来るし、結婚してからこれまでずっと、夫の私の実家への関わり方は普通ではない。
私も、母が指摘する夫の悪い部分が大嫌いだ。
それでも、母の口から出るその暴言は、ただただキツイ。
娘が選んだ夫の悪口を言うことは、その娘自身を否定すること。
つまりは、その娘を産み育てた自分にも否があるーという考えまでには行きついてくれない。
だから、思うままに暴言を吐けるのだろう。

 文句を言う母に対しても、言われても仕方がない夫に対しても、怒りと悲しさが湧いてくる。
きっと、どちらも私のことなんて考えていない。
夫の悪口を言ってスッキリする母は、私にその鬱憤をぶつけることで清々していることだろう。

 一方、夫は、私が夫のせいで母から毎回嫌味を言われていることなど露知らず。
私が落ち込もうが、寝込もうが、何が原因でそうなっているのかなど察しようともしないし、ただ迷惑そうに「飯は?」の一言。
そういう鈍感というか、思いやりのかけらもないところ。
それが母の嫌う夫であり、私も同意せざるを得ない彼の欠点。

 犬猿の仲ー
そんな二人の間に挟まれて、なんだかもう消えたい気持ちになっている・・・






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