マルチタスク能力必須

ミーティングルーム 仕事
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 昨日と今日は昼上がりだったバイト。
明日はまた15時までで金曜はやっとの休み。
これまでのパートと違い、肉体的に勝る精神的辛さが半端ない。


 この数日で、家の中があっという間に荒れた。
帰宅してからも、何も手に付かない。
そして子の弁当だが、とうとう冷食に頼ってしまった。
夫に何か言われるかもーと思ったけれど、それよりも楽したい気持ちの方が勝る。
そのまま自然解凍でOKのおかずをぽんぽん詰めるだけ。なんて楽なのだろう。
それだけで、少しは肩の荷が降りる。
今週は、運の良いことに夫は外で夕飯を食べる予定が多く、手抜きが出来る。

 月曜の夜は、うどんと出来合いの天ぷら。
火曜はカレー、そして今夜は本当に何も作る気分になれず、冷凍ピザとパスタを買って来た。
子の分だ。私は食欲がまったく湧かないのでサラダだけでいい。
今日の昼も、自宅に戻り冷蔵庫からきゅうりとちくわをマヨネーズに付けて食べただけ。
お腹は空いていないけれど、何か入れないとーと無理やり食べた。やはり味はしなかった。

 朝食も、仕事に慣れるまではごめんと夫に伝え、これまでのような和定食は作らず適当に済ませている。
夫が嫌いなパンモーニング。
パンにスープにゆで卵とバナナ。
出勤時刻が夫と同じくらいなので、さすがの夫も文句を言わずにいてくれた。

「まあ、そこで正社員にでもなったら世帯収入上がるしな。頑張れよ。」

 なぜかバイトから正社員途用制度もあるだろうと勝手に解釈している。
バイトが一人だと伝えたところ、そんな風に捉えたようだ。
そんな夫からの応援ですら、プレッシャーに変換される。


 昨日は、フォトショップの使い方を教わった。
小川さんから手取り足取り。
でも、全然操作を覚えられない。
その途中で、雑務も色々覚えなくてはならず、必死でメモを取るけれどその肝心なメモも要領を得ていないのか後から読んでもちんぷんかんぷん。
座って出来る仕事ー主にデータ入力だと思っていたら大間違い。
勿論、初日のような入力業務もあるけれど、それ以外の業務がてんこもり。
事務のような仕事もある。
ファイリングやある規則に沿った手続きのようなもの。
彼らからしたら、「雑用」の類いに入る簡単な業務なのだろう。
周囲を見渡せば、何となく分かる。
私が任される業務とは違う、とても難しい何かをしている。
その何かは私には到底理解出来そうもないこと、それだけは明確だ。
最終目標は、ここにいる社員の雑務を一手に引き受けることなのかもしれない。

 今朝も、初日同様、小川さんからやるべきことを指示された。
そして、その業務は時間内に終わるよう計算されているのかもしれないけれど、実際は半分もこなせない。
だいたい午前中、彼らはミーティング室へ行ってしまう。
取り残された私は、電話番をしながら与えられた業務をこなす。そして、新しい業務について一度説明を受けてやってみるがだいたいがスムーズにいかず、分からない箇所が出て来てストップしてしまう。
しかし、聞く人がいない。業務が滞る。

 今日もそうだ。
新しい仕事を振られ、それがまたサンプルを見よう見真似でやってみてーというようなもの。
そのサンプルの仕組みが理解出来ていないのに、理解できている風を装ってしまった。
小川さんが手短に説明して自分の仕事をしたい感じに思えたので遠慮してしまった。
実際、彼女も何か作業をしている途中で上司に呼ばれ、ミーティングルームへ消えて行った。
前方や斜め前の男性に聞いても良いのか?
しかし、それは違うだろうと思い直す。
彼らとは朝と帰りに挨拶をする程度で仕事の話なんて皆無なのだ。
突然、おばさんが彼らの業務外の質問をして来たらギョッとするだろうし、迷惑に違いない。

 そんな中、小川さんが自席に戻ったと同時にリーダーに声を掛けられた。
何か大きな仕事を任される!?と心臓がドキドキした。
私より年下、しかし社会人経験でいえば遥か年上に見える彼。
落ち着きもあり、ここ数日で彼がこの部署でどれだけ重要なポジションにいるのかが分かる程。
周囲も彼には迂闊に声掛けなどしないのだからー

 小さなミーティングルームの中、リーダーと向かい合う。
こんないちバイトのおばさんにお偉いさんがーと思うと、どこに視線を合わせたら良いのか分からず挙動不審な動きをしてしまう。
手汗が酷い。

「どうですか?少しは慣れましたか?」

「えぇ、まぁ。」

 この流れで、今の本音を言えるはずもなくただ彼が望むだろう返しをするだけ。
バイトだからもっとお気楽なものだと思っていた私が馬鹿だったのかもしれない。
バイトとはいえ、彼らからしたら社員を雇うのと同等に扱い、そしてこちらもそれに応えなくてはならないのかもしれない。


「小川から色々仕事を貰っているとは思いますが、どうですか?」

「とても丁寧に教えて下さって、有難いです。」


 これは本当なのだ、だが、私の言いたいことはそれではない。
彼女はとても丁寧だけれど、私の理解がついていかないーそれを伝えなくては。

「そうですか。で、僕の方からはちょっとお願いが。今後、会議の議事録を取って欲しいのですが。」


ー議事録?


 狐につままれたような表情をしてしまう。
議事録なんてーいったいどうやって?PTAや子ども会など、子ども関係の役員仕事でもよく耳にしていた「議事録」という言葉。だが、私はそんなものを取った経験などない。
まして、ここは会社だ。

「議事録ーですか?ちょっとやったことないので・・」

 リーダーは、そんな私の困惑に気付いてか気付かずか、笑みを浮かべたまま頷く。
そんな重大な仕事をバイトに?そんなのは無理に決まっている。勘弁してくれと心で叫ぶ。


「そんな難しいことじゃないから。分からなければ小川に聞けばいいし。」


「え、でも・・出来るか・・」


「ま、考えておいて下さい。あ、今日は昼までだっけ?お疲れ様。」


 リーダーの携帯が鳴り、そそくさとミーティングルームから出て行ってしまった。
足取り重く、自席に戻る。
ちらっと斜め前の男性が私を見たがすぐにPC画面に視線を戻す。
小川さんが、


「リーダーから、何か言われました?」

「議事録をお願いしたいと・・」

「あ~、そうなんですね!」


 何ていうことだ。
無理だ無理。
自分の好きな文章をこうやって好き勝手書いているのとは違う。
自分の業務内容ですら理解出来ていない人間が、更に分からない業務についての議事録を取るなんて無理だ無理。


 あっという間に正午になり、パラパラとランチへ出て行く波に乗って退社した。
辞めたい、もう逃げたい、ただのパートなのに責任が重過ぎる・・
渦巻く感情に支配されそうになったところで、一通のメールに気付く。

もう少し、踏ん張ろうと思った。



***

Hさん

 メッセージ、ありがとうございます。
厳しくも有難かったです。
人の目を気にするところ、くだらない詮索。
いつまで経っても成長しない私の欠点。
どれもこれも耳に痛い言葉でしたが仰る通りです。
やるべきことをやる、今は仕事に集中する、分からないことは勝手に進めない。
出来ないと思われても素直に聞く、確認する、クビにならないよう食らいつく。
これがあなたにとってのラストチャンスという言葉に泣きました。
どれも肝に銘じて頑張りたいと思います。








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