短冊に願いを込めて

天の川 仕事
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 ようやく花金。
この感覚にほっとしている。
夫と子を送り出す余裕、いつもよりだいぶ遅めに回している洗濯の最中、朝の珈琲タイムを過ごす。
ゆったりとした時間の流れに、これ以上ない幸福を感じる。


 朝、いつも通り5時前に目が覚めた。
本当は、5時半に起きるのが丁度良いのだけれど、体は心と繋がっている。
今週は、遅刻しては大変だという緊張感から睡眠も浅かった。
今日は休みだというのに、起きた瞬間が何曜日かも分からず気分が落ち込み、あぁそうだ今日はバイト休みだと気付いて心の底から安堵した。
何でもない一日、予定のない一日の貴重さを噛み締めた。


仕事休みの日は丁寧な朝ごはん

 朝食は、久しぶりの和定食。
鮭を焼き、甘い卵焼きに焼きのり、そして豆腐とわかめの味噌汁にハムサラダ。
カップの納豆にデザートには桃。
夫が犬塚さんから貰って来たのだ。


「なんか、豪華だな。」


 夫も子も満足そうに食事を平らげ、仕事や学校に出て行った。
今日は、この荒れ狂った家を整えようーそう思っていたのだけれど、疲れが残っていたのか、朝寝してしまった。
1時間弱ぐっすり眠った。
今週の足りなかった睡眠を補給するかのように、あんなにズキズキしていた片頭痛もすっかり良くなった。



自分だけのマニュアルノート作り

 ここ毎晩のように、夜は仕事の復習をしていた。
昨夜は翌日が休みということもありさぼってしまった。
なので、記憶が新しいうちにノートに復習とまとめる作業をしなくてはならない。
私は字が壊滅的に汚いので、後から自分の字を読んでも「?」となることが多い。
数日も経てば、解読不可能だ。
 業務は、ぽんぽん振って来る。
振られたらメモを取る。つぎはぎだらけのノート。
一見、バラバラに思える業務でも、どこかで繋がっているのかもしれない。
なので、清書のノートはリング式のものにした。
そうすれば、ページの順序を入れ替えることが出来るし、要らないものは捨てられるし、何より自分だけのマニュアルが完成する。

 このノートがどれくらいの厚さになれば、私は「ここ」に居ても良いのだと言う自信に繋がるのだろう。
右も左も分からない、まだ生まれたばかりの赤ん坊のような私。
これまで努力せず、何でも先延ばしにしていた人生のツケを回収しなくてはならない。


質問する際の最低限の礼儀

 ノートを作成しても、実際の業務でそれを使いこなせていない事実。
見返す時間が無い。
次から次へと振って来る新しい業務。
ノートはすぐに新たなメモで埋め尽くされる。
そして、聞いたそばから分からないこと、用語が多い。
しかし、質問のタイミングも難しい。

小川さんが自席にいるのはわずかな時間ー、そして彼女にとっても自席にいる時間は自分の業務に集中したいはず。
こういう時、人の顔色や状況など省みず、良い意味で空気を読まずガンガン質問出来る人間が仕事を覚えていくのだと思う。
自作のノートを必死に繰りながら頭を悩ませていると、時々彼女の方から声を掛けてくれる。
そんな時、私はまるで幼い子どものようで彼女はお姉さんのようにすら思える。
待ってましたといわんばかりに、溜め込んでいた質問をする。
それでも時間がやはり足りず取りこぼしてしまうことも多い。

このやり方が悪いのは分かっているけれど、彼女が目の前で上司から負荷の大きい業務を投げられ、その対応を即座に求められている中、ピリッとした横顔を目にしてしまうと、手も足も口も出せない。
人形のように固まってしまう。
そうして昨日も、たくさんの宿題を抱えて職場を後にした。

来週が、怖い。



バイト社員関係ない、仕事に対する姿勢

 ひたすら復習。そして予習。
議事録の書き方について、この週末は予習をしなくてはならない。
小川さんに最初から聞くのは違うと思うから、自分なりに調べて考えてやってみて、準備すること。
自分の中での最高のパフォーマンスを見せてからダメ出しを受けるべきだと思うのだ。
周囲の仕事のやり方ーまだ経った一週間だけれど、それを見ていると、それが仕事なのだと思える。
こんな風に感じること自体、生まれて初めてだ。
ただのんべんだらりと受け身でいることは、怠慢だ。

 正直、今もまだ辞めて楽になりたいという気持ちと戦っている。
しかし、ここで辞めたら本当に自分はクズだなーという思いもある。
まだなんの努力もしていないし、会社から辞めろとも言われていない。
辞めたいと訴えるだけの資格すらないのだ。


 昨日の帰り道、スーパーの入り口に大きな笹が飾ってあり、色取り取りの短冊が風に揺られてなびいていた。
子どもの願いだけでなく、大人の願いも。
老若男女、生きている場所環境は違えど、この笹に短冊を掛けた人々は誰しも不安と希望を胸に日々を精一杯生きている。
苦しいのは、自分だけじゃない。そんな風に思えた。

テーブルの上にあった、私には似つかわしい赤い色の短冊を手に取る。勝負の赤だ。

ーなりたい自分になれますようにー

 今の私の願い。
仕事がうまくいくとかいかないとか、そんなことではなくて。
がむしゃらに一生懸命、自分を見捨てずに頑張らなくてはならない時が人生には何回かある。
その何回かのうちの一回が、今なのだと思う。
そして、それが「チャンス」なのだと思う。







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