意を決し、夫にお願いした。
家の貯金総額を教えて欲しいと。
子の大学資金はどれだけ貯まっているのかと。
そして、出来れば私に家計管理を任せて欲しいと。
しばらく無言が続いた。
夫は俯き、グラスに入ったウイスキーをぐっと飲み干すと、
「分かった。」
そう答え、自室へ入る。少しして出て来た夫の手には、ノートPC。
通帳ではない、WEBで管理しているのだという。
子は既に寝入っており、静まりかえったリビング。
カタカタとキーボードで夫は銀行口座パスワードを打ち、私の方に画面を向けた。
「花子のはこれ。」
いよいよー
我が子の教育資金がどれくらい貯まっているのか。
ドキドキしながら、子の名義である貯金残高を見た。
350万と少しの金額。
「児童手当はそのままそっくり花子の口座に移動してた。その他は、祝い金とか色々。でも、祝い金やお年玉は中学からは本人に渡してるからな。後は、勤めてる時のボーナスの何割とかコツコツこっちに移動してた。」
多いのか、少ないのか?
正直リアクションに戸惑った。ただ、子の児童手当を開業時に突っ込んだりしていなかったことには安堵した。ここだけの話、疑っていたのだ。もしかしてー、我が子の教育資金に手を付けているのではないかと。
「これは、家の。あと引き落とし口座。」
家の口座。これを見たかった。
我が家は賃貸。ローンの返済もない。だが、現在は事務所と家の家賃の二重払い。
いったいどうなっているのか、不安で不安でたまらなかった。
「これだけ?」
「あぁ。」
家の貯蓄は500万ちょっと。
少しの期待はただの期待に終わった。
以前、夫の自室のスーツケース内の通帳数冊は、この一つの口座にまとめられたのだろう。
そしてあの時、最後の一冊は見ることが出来なかったけれど、あれは事業用の資金だったのではと思う。
そうすれば、辻褄が合う。
子の分と合わせて、トータル1000万もいかない我が家の貯金額。
今後を思うと、やはり不安しかない。
「これで満足?」
夫は大きくため息をつくと、PCを閉じた。
満足も何もーマイナスではないにしても、けっして安心出来る貯金額ではない。
家がある訳でもない、そして義実家に借金だってしている。自営の仕事が今後うまくいくのかだって不透明だ。
そんな中、夫はもしもを考えて、1年は生活出来るだけの分を貯めていたと言うけれど、私の不安は更に色濃くなる。
本当はもっとあるかと思っていたのだ。
一部上場の安定企業に勤めてそれなりの額は稼いでいただろうし、私の知らないところで義実家から援助のような金は貰っていただろう。
ただ、株で一度大失敗をしたことがあったようなので、その影響が少なからずあるのかもしれない。
自営の仕事がどれくらい赤字なのか聞くと、それには夫は応えてくれなかった。
ただ、今後は家計はすべて私に任せると言い出した。
そしてその条件に、家計をこれまで以上に黒にして欲しいと。
夫からは、これまでやり繰り費だけを渡されていたけれど、今後は生活費すべてー、家賃や光熱費、その他諸々の引き落としや子の学費等トータルでの管理、それも含めて毎月黒にしてくれと言い渡された。
「あなたも外で仕事するようになったんだし、その収入も含めて家の金として管理してくれよ。」
そして、これまで夫が付けていたExcelでの家計管理を共有するように言われた。
それは恐ろしいくらい細かくて、ただ今年の4月でそれは止まっていた。
要するに、夫はそこまで手が回らなくなっていたということだ。
知ることは、責任を伴う。
ただ、結婚して長年の間、私達夫婦の中にあったわだかまりが少しだけ消えた気がした。
やるしかない。
改めて、お金の勉強をしなくてはと奮起した。