子の友達の両親が離婚することになって、相談を受けているのだと聞いた。
その子は三人兄弟の末っ子で、姉や兄は社会人。家を出て、自活しているのだそう。
「ずっとさ、両親、仲悪かったみたいよ。小さい頃からいつも怒鳴り合いの大喧嘩で、友達もうんざりしてたみたいだけど。」
「で、その子はどうするの?」
「迷ってるみたいだけど、母親についてくってさ。」
そりゃあそうだろうと思う。なんだかんだで子どもの世話は母親が担っている場合が多いし、それに同じ女同士、勝手がわかる。
「その子のママ、公務員らしいしね。経済的にも安心だからね。そうじゃなかったらきついでしょ。」
耳を疑った。
どういう意味なのか、そのまま言葉通りの意味なのだろうけれど、つい子に尋ねてしまい後悔した。
「花子はもしママ達が離婚するとしたら、どっちについてく?」
子は、ほんの少し考えるようなそぶりを見せた後、あっけらかんとこう言い放った。
「ママはパートだしパパの方かな。金銭的に安心だし。じいじ達もお金持ってるし。」
ぐうの音も出ないというのは、こういう時に使うのか。
ただただショック。
しかし、表情を崩さず平静をたもつ。
「そうなんだ。まぁ、ママも自分の生活で精一杯になるだろうからそっちの方がいいかもね。」
心にもない台詞を吐く。
子は、へらへら笑いながらスマホを手に動画を視聴し始めた。
悲しかった。
生まれた時から、おむつを替えたことすら一度もない夫。初めて立った瞬間を見届けたのは私。
最初の言葉だって、「ママ」だった。
幼稚園送迎や、PTA活動、子ども会やその他諸々、子に関する雑務は私が一手に引き受けて来た。
子がおねしょしたり嘔吐した始末や熱を出した時の看病だって。初潮を迎えた時だって全面的にサポートした。
友達とのトラブルや悩み、学校を行き渋った時だって自分以上に悩みこけたし、子の為に明るく振舞い出来るだけ家での環境をリラックス出来るよう整えて来た。
夫に出来る訳がない、母親としての仕事。
そう思ってーというか、夫は私に全部丸投げだったから、私はやるしかなかったのだ。
それなのに、すっかり大きく体だけは大人の女性になった我が子は、感情に流されない計算高い子に成長してしまったようだ。
こんな時、夫の血が子に脈々と流れていることを思い知る。
心も体も擦り減らし、全力投球で子育てしてきたつもりだったけれど、子にはまったく伝わっていないどころか若干お荷物的存在にシフトしている自分。
そして、私だけでなく実家のことももしかしたら子にとっては負担なのか?とすら思い始める。
従姉妹もいない、たった一人の孫という重圧。
未婚でパチンコ中毒気味、貯金すらない叔父。
それらを背負うよりも、夫方に付いた方がリスク分散。従姉妹だって多く、三女は相変わらず結婚の兆しはなくともきちんとした企業に勤めている。
しっかり現実を見据えた判断能力を我が子が持っていることに喜ぶべきところなのかもしれないが、やっぱり嘘でも「ママに付いて行く」という言葉が欲しかった。