土産ハラスメント

韓国 仕事
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 お盆明け。
事務所の休憩室には帰省した社員らからの土産の箱が並ぶ。
ペタッと付箋に一言、良かったらどうぞ!と。
皆、気軽に饅頭やらご当地土産を取っていくが、パートで新入りの立場の自分には手が出ない。
それを持って自席で食べるのも気まずいし、そもそも接点が無い社員からの土産なので、遠慮してしまう。
そんな中、同期は嬉しそうにデスクに取って来た菓子を並べる。


「なんか嬉しいよね~、三時のおやつにしよ!」

 天真爛漫な彼女は、私のようにいちいち細かいことを気にせず思うままに行動する。
それが時に疎ましくもある一方で、清々しくもある。

 ランチタイムになり、やっぱり誘われてしまった。
昼を用意していなかったので、適当に済ませたいのが本音だけれど、やっぱり足並みを揃えてしまう。
今日は、木佐貫さんが行きたいという小綺麗な和食屋さん。
その店は、美味しい刺身定食を都内にしてはリーズナブルに提供してくれるらしい。
それでも、1000円は超えてしまうけれど。時給がまた飛ぶ。

席につくと、花山さんがバッグの中にごそごそ手を入れたかと思うと、3つの袋を出し、米田さんー木佐貫さんーそして私の順にそれを手渡す。


「北海道に行って来ました~、お土産です!」


 北海道スイーツで有名な菓子店のチョコレートだ。
限定味なのでなかなか手に入らないらしい。


「わぁ!ありがとう!でも天気大丈夫だった?」


「最悪でしたよーずっと雨!」


「やっぱそうだったんだ。残念だったね。でも美味しいものたくさん食べれた?」


「はい!お陰で2キロ太りましたよ~」


「そうそう、私もあるんだ。」


 続いて木佐貫さんが、トートから取り出したのは京都土産だ。
抹茶のバームクーヘンとあぶらとり紙だ。バームクーヘンもきちんとした箱入りだった。


「京都、暑かったでしょう?」

 仕事中は厳しい表情の米田さんが、和やかに尋ねる。
土産を受け取りつつ、仕方がないことだが自分は何も用意していないことに居心地が途端に悪くなる。
そしてとうとう、米田さんもミニバッグと共に持っていたエコバッグを探ると、高級そうなフェイスパックと韓国語パッケージのお菓子を出し、私達に配る。


「ごめんね、バラマキで。」


「え~!これって話題のパックじゃないですかぁ~嬉しい!!」


 いち早く、花山さんが高い声を上げた。
私は肌が弱いし、パックは時々しか使わないので詳しくないけれど、その反応で良いものなのだと分かる。
いよいよ立場がなくなり焦った私は、つい声を上げた。


「ごめんなさい!私、何も用意してなくて。旅行も帰省もなかったんで!!」


 一瞬、ぎょっとした表情の米田さんが視界に入った気がしたが、止まらない。


「子どもも高校生で、夫も仕事が忙しくて、本当にただ家にいるだけのお盆休みでー」


「・・・」


 微妙な沈黙の後、木佐貫さんが無理して作ったような笑みを浮かべ、


「そんな、気にしないで。勝手に好きで買って来てるだけだし。そんな高いものでもないし。」


 花山さんも、


「そうだよ、こっちが好きで買って来ただけだし。それに、お子さん大きいとなかなか家族で出掛ける機会も減るよね。私も友達との旅行だったしね!」


 ギクシャクしているところに、まるで救いの神のタイミングで刺身定食が運ばれて来た。
皆、何事もなかったかのように別の話題で食事が進む。
私はやはり黙々と食べるしかなく、居心地の悪さはどうしたって変わらず、むしろ仕事中の方が楽かもーと思える程の神経を使い疲れ果てた。

秋の三連休、旅行へ行った振りをして土産返しをした方がいいかもー
そんなことを考えながらの昼休憩は、まったく気が休まらなかった。




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