私達の老後を考える、更に先にある我が子の老後を考えると、悩ましくも不安しかない。
そして今の老人達は、この物価高に嘆きながらも、案外私達よりもずっと裕福な生活をしているように思える。
実家へ行って来た。
その際の愚痴は例のごとく上の階の住人に対する不満が大半だったのだけれど、結局、あれから進展も無く、ただ母だけがくすぶり引き摺り続けている。
弟の方こそ、まるで他人事。同居しているのに関わらず、母のいないところで欠伸をしながらこう言うのだ。
「気にし過ぎなんだよ。俺はそんなの気にならないし。暇だから些細なことで大騒ぎしたいんだろう。姉さんも放っておけよ。それよりパート代ってもう入った?」
「何それ。あんたに渡す分なんて無いから。こっちはこれから教育費だって掛かるんだから。」
すぐ金の話に持って行く弟に嫌気がさす。
この会話を最初から最後まで録音して母に聞かせてやりたい。いや、聞いたところで母にとっては可愛い目に入れても痛くない息子なのだろうが。
「ちょっと買い物行くわ。あんたも来る?」
母に誘われ、実家近くのマーケットへ行くことになった。
荷物持ちだ。
「ここ、品揃えがいいのよ。引っ越してから使うのはここばっかり。」
母の後ろについてカートを押す。
かごの中に、いきなりシャインマスカットを入れる母。1200円。
今、高くてなかなか手が出ないトマトも躊躇なくかごに入れる。値段を見ているのかいないのか、ポンポン入れる。
魚売り場で刺身を買う。マグロ、それも大トロ。
「私達も歯が弱くなって、こういう柔らかいものばっかり。」
いや、柔らかいものなら豆腐もあるだろう。
突っ込みたいが、ぐっと堪える。
肉売り場でも、質の良い国産牛やアグー豚。グラム98円の豚小間ばかり買う我が家とは天と地の差。
「あの子に私の手料理をいつまで食べさせてあげられるか分からないしね。少しでも良いものを食べさせないと。あんたも花子にちゃんとしたもの食べさせてるの?まさか外国産の肉なんて食べさせてないわよね?」
この物価高。
ニュースを観ながら先程まで嘆いていたのを忘れたかのように、高価な食材を迷いなく入れるのは自分達の為ではなく息子の為ーと言いたいのだ。
私だって、子の為にそうしたいけれど、先のことを考えたら目先のことに贅沢出来ない。
夫も国産に拘っていたけれど、最近では煩く言わなくなった。
冷食でもそう。
自分で事業を始め、資金繰りがうまくいかないこともあるのか、一緒に買い物に行っても以前のように考えなく高価な国産肉をかごに入れることは無くなった。
それでも自分の物に関しては贅沢だけれど。
会計が、1万を優に超えた。
嗜好品も忘れることなく、ナッツ類や甘味、それにパン屋の美味しい食パンなど本当に贅沢な買い物だ。
「買い物って週に何回くらいしてるの?」
「え?毎日に決まってるじゃない。こんなの1日分よ。」
絶句した。
弟がいるので成人3人分だとしても、我が家の何倍食費が掛かっているのか。
毎日買い物?
今日のように1万掛からないにしても、月にしたら10万は軽く超えているだろう。
まさか借金はしていないと思うけれど、貯金はあるのか?
前に冗談で言っていた、
「ボケたら何も分からないから、よろしくね。」
この台詞を思い出し、恐ろしくなる。
しかし、親子であっても越えられない壁。
金銭問題についてのあれこれは、聞くに聞けないタブーな話題なのだ。