昨日の午前中、部内ミーティングにより、A課とB課の課員全員が打ち合わせで大会議室へ。
丸さんもノートPCを手に、さっさと離席。
2時間くらいかかるということで、田口さんーアラサー若手女性社員に作業を依頼された。
「VLOOK使えば、簡単に出来るのでお願いします。多分、すぐ終わっちゃうかもしれませんが、時間が余ったら、この入力もしておいて下さい。」
そう言い残し、バタバタと出て行ってしまった。
久しぶりに、付箋ではなく口頭での指示だったのは嬉しい。
だが一人残され、もう一度その指示をかみ砕くと、これはまずいかも・・と気が焦る。
表作成の完成図はイメージ出来るけれど、何をどうしたらそうなるのかさっぱり分からない。
VLOOKといえば、以前勤めていたIT事務の仕事の時に散々小川さんからレクチャーを受けた関数だけれど、もう長いこと使っていないので忘れてしまった。
それに、ちんぷんかんぷんでデータを壊してしまった苦い思い出が蘇る。
理論は分かっていても、いざそれを使って複雑な作業を任されると頭が真っ白。
2時間で戻ると言っていたし、しかもすぐ終わっちゃうと思いますなんてハードルを上げられたものだから、焦りばかりが先に立ってなかなかうまくいかない。
ググリながらやってみても、思うような数値が出ない。
「やっほー、どう?暇?」
花山さんもパートなので、フロアに二人きり。
相変わらず、社員がいなくなると手持無沙汰なのかウロウロしたり、スマホで何かしていたり。
余裕があって、羨ましい。
「いや、全然暇じゃない。会議終わるまでにやらなくちゃならないことが多過ぎて。」
「何やってるの?」
「これ、ここの数値がこうなるはずなんだけど、ならなくて。」
「ん~、どれ?ちょっといい?」
こういう時、彼女が女神に思える私も調子の良い人間だが、同期だし頼ってもいいかなーと、暇そうにしているしいいよね?と甘えてしまう。
席を譲り、彼女に座って貰う。隣に立ち中腰になり、依頼された作業の説明をする。
「あー、なるほどね。こっちのシートのデータから引っ張って、この列と連動させないとだよね。あ、これ絶対参照にしないとだよ~」
ほぼ、マウスを使わずキーボードのみの手さばき。ショートカットキーとやらを使いこなしている。
私のように、右手をマウスに支配されないその動きは無駄がなく鮮やか。
タイピングの小気味良い音に、惚れ惚れする。彼女のスキルはやっぱり高い。
「はい、これで出来たんじゃない?確認してみて~」
ものの5分で完了。
あとは、この仕上がった表に、時間が出来たらと言われていたデータを入力すれば、表は完成する。
その入力は手作業なので時間は掛かるけれど、単純作業なので、考えなくても出来る作業だから気が楽。
会議が終わる頃までには完了出来そう。
早速、取り掛かろうと、花山さんが席を立ったので入れ替わりに座ると、私の隣の席に座り、愚痴を吐き始めた。
「黒ちゃん、社員になった途端になんか上からなんだよね~あからさまに雑用押し付けて来てさ。しかも、ちょっとしたミスに対してもいちいち指摘して来るし。自分だって間違えることあるじゃんね。私はそういうのさらっと直してるのにさぁ~。いい子だと思ってたけど、米田さんの太鼓持ちだからね~、やっぱ同じような性質なんだろうね。あー、もう辞めようかなぁ。」
大あくびをしながら、だが私に向かって話し掛けているので無視出来ない。
仕事を手伝ってもらった恩もあり適当に流すことも出来ず、相槌だけではなく共感もする。
「まだ若いし、必死なんだと思うよ。社員になって、肩に力が入ってるのかも。」
いったい何様なんだ?と我ながら思うけれど、入力しながら答えているので妙な気を遣うことが出来ず、ついいつもなら思っていても口にしない言葉がスラスラ出てしまう。
同期相手だし、気もつい緩む。
「米田さんもさぁ、相変わらずだよ。マジあいつムカつく!いっつも面倒な仕事こっちに押し付けておいて、そりゃあ私はパートだけどさ、でも社員がやるべき仕事までこっちに回すのってどうなん?って思う。しかも自分の手柄にするし。」
「大変だね・・でも花山さんが仕事出来すぎるから頼っちゃうんだよ。」
「いや、便利に使われてるだけ!この時給でさ、別にここじゃなくてもいいんだよね。で、そっちはどう?佐藤課長って怖い?」
「いや、殆ど話したことないから分からないかな。」
「なんか怖そうだよね、結婚してないんだよね。仕事命!!って感じだし、でもなんか色々捨ててる感あるよね~どう?ここで続きそう?」
「その話だけど、半年契約だったんだよね・・」
つい、不満を漏らしてしまった。
自分の中でだけモヤモヤしていたこと。
夫にも伝えていないのに。
だが、他人に聞いてもらうことで私の内部に溜まっていたガスが排出されていくような、少しだけ気持ちが軽くなる感覚に、止まらなくなる。
「え?マジ?それって面談の時に聞いてて受けたの?」
「私も良くなかったんだけど、雇用契約書にさらった書かれてたの見落としてて。面談の時に口頭では伝えられてなかった気がするけど、でも緊張してたし、本当は説明されてたのかもしれない。私が聞き逃しただけで。」
「じゃあ来年の3月まで?転職活動しないとじゃーん!」
入力していたPC画面から、彼女に視線をうつす。
失敗したと瞬時に思う。
ばっちりアイメイクをし、マスカラをたっぷりと塗った睫毛から覗くそのキラキラした瞳の中に、エンタメを見る。
「それは無いよね~、有り得ない!ちょっと上に相談してみたら?」
出来る訳もないアドバイス。
心配する体で、だがその表情は生き生きとしている。
仕事を手伝って貰った対価だと思い、ぐっと堪える。
外線が鳴り、それを機に雑談を終えて彼女は自席へと戻って行った。
余裕だと思っていた入力がギリギリになり、大慌て。
見直す時間もなく、田口さんに完了の報告をした。
「全部作成して下さったんですね!助かりました、ありがとうございました~!」
その笑顔は、本来、私ではなく花山さんが受け取るもの。
罪悪感を抱えながらも、「助かる」というその言葉は、私を人間に戻してくれた。
同期のPCさばき
週3パート事務