眠れなかった。恐らくトータルでの睡眠時間は3時間程度。
3時半に目が覚め、それからどう頑張っても寝付けずにうとうとしたり、布団の中でただ時間が過ぎるのを待っていた。
その時間で、業務の復習が出来たのだろうが、そんな気力は湧かずただぼーっとスマホを眺めていた。
ツイッターで、私と同じように仕事で辛い人のつぶやきを探しては、あぁ分かると共感したり励まされたり。
昨日も、へとへと。
500mlの麦茶が入る水筒を持って行っても、帰りには半分も残っている。
要するに、喉を潤す余裕も無い。
水分を取るなと言われている訳でもないけれど、あれやこれやしていると気ばかり急いてしまい、お茶を飲むことなんて二の次、三の次なのだ。
付箋だらけのノート
週明けー
休みにはあんなに復習もしていたのに、いざ業務になると手順が違ったり抜けていたりとミス連発。
自分でも嫌になる。
アタフタと手元のノートをめくったり、予め小川さんから説明と共に受け取っているマニュアルとまではいかないけれど、簡単な指示書を探すが、なかなか見付からず時間だけが過ぎたり。
あちこちに付箋を付けていたことが、かえって自らを混乱させるのだ。
付箋が多過ぎる。
自分なりにまとめたーと思っていたものが、いざ必要な時に欲しい情報をピックアップ出来ない。
出来たとしても時間が恐ろしい程掛かる。
モタモタと、あっちのファイルやこっちのファイルを探すけれど、見当違い。
整理の仕方が悪いのだろうか。
学生時代もそうだった。
テスト前、教科書の大事な箇所に蛍光ペンであちこちなぞり、結局のところ何が重要なのか分からずぼんやりしてしまうーあれと似た状況。
要点がまとめられないのだ。
マニュアルノートのあちこちから飛び出た付箋に、業務内容を小さくメモしてある。
だが、そのメモを見てすぐに「あの業務だー」と繋がらない。
独身OL時代
憧れのオフィスワーク。
遥か昔、独身時代にも経験が少しはある。しかも、パートではなく契約社員という立場だった。
だが、こんなに大変だっただろうか?
議事録なんて付けたこともなければ、こんなに業務も煩雑ではなかったし、また頭もさほど使わなかった。
それこそ、決められたルールに乗っ取っての入力業務やコピー取り、FAX送信や決まり切った定例のメール送信、当番制のお茶くみくらいで。
若かったから飲み込みが早かったーとかではない。
明らかにあの頃の仕事の方が楽だった。
こんなに時間に追われてもいなければ、矢継ぎ早にあれこれ難しい業務を覚えなくてはならないこともなかった。
もっとゆったりと時間は流れていたような気がするし、それこそのんびりデスクでお茶を飲む時間すらあった。
あれから20年以上経ってー時代が変わったということなのか。
バイトやパートであっても、正社員並みのスキルを求められるのだろうか?
それとも、この職場が特殊なのだろうか。
庶務的なことすら足手まとい
業務以前の問題で、日報と共に勤怠を自分で入力しなくてはならない。
それがまた社内ツールを使うのだけれど、その申請方法について一度説明を受けただけで理解出来なかった。
初日にも、自分専用のPCアカウントのパスワード設定だとか、その他諸々の設定が出来ず、小川さんに苦労を掛けた。
一瞬ー、彼女の表情が「こんなことも分からないの?嘘でしょう?」という風に見えてしまい、委縮してしまった。
この年齢で、バイトといえど主婦を採用したからには、さぞかし出来る人ーそう彼女は期待していたのかもしれない。
それが蓋を開けてみたら、まったく出来ない。
愕然とするものの、彼女は理性的な人だからすぐに切り替え、適切な対応をしてくれている。
それでも昨日は、流石に彼女を苛つかせてしまった。
急ぎの用でもないのに、自分本位に質問してしまった私が悪いのだ。要するに、空気が読めなかった。
「それ、今じゃなくてもいいですよね?月末に申請すれば集計出来るんで。」
やってしまった。
ひたすら謝り、泣きそうになりながらも自分のマニュアルの中に答えがあるかもと探し、エアコンの効いた寒いくらいの室内なのに汗をびっしょりかきながら四苦八苦していたら、少ししてから小川さんが仕切り直しという感じで話し掛けてくれた。
「午後には時間取れるので、先程の質問はその時でいいですか?」
彼女の部下のような位置付けである私だが、年輩者ということで気を遣ってくれたのだろう。
そして、なんともやりにくいだろうなーと彼女の立場に立つと思う。
年下だったらもっとガツンと言えるだろうし、教える立場であってももう少しスムーズにいけるのだと思う。
「すみません・・ありがとうございます。」
きつい、そして辛い。
しかし、彼女だって種類は違えど同じくらいきついのだと思う。
バイトと正社員のボーダーライン
よく聞く、「正社員並みの仕事」というやつ。
それって、一般的には正社員と同等の業務をしているということなのだろうが。
給与体系だとか、勤務時間だとか分かりやすい線引きではなく、業務の濃さや責任の重さも指標に入るのではないか。
それは職場によって違うのだろうけれど、今の場所には私と同じ立場の人間がいない。
だから、正解が分からない。
なので、過去の自分がしてきた経験と比較してしまう。
ふと、清掃や工場、惣菜パートの時の仕事内容と負荷を考える。
あの時は、人間関係がどうのだとかお昼休憩が一人で寂しいとか、話す人がいないだとか、お局がどうのこうのとかー仕事内容というよりは人間関係の良し悪しに重きを置いていた。
それはそれで精神的に辛かったのだけれど、今はあの頃の悩みがちっぽけに思える。
多分、そこに「なりたい自分」の将来像が無かったから。
ハナから、お金の為だけーの仕事だったから。
勿論、どんな仕事にだって責任はあるのだけれど。
この仕事には、責任プラスαがあるのだ。
そのαに、私は今、苦しんでいる。ポンっと逃げ出すことの出来ない、人生の賭けーのような。
私にとって、この業務内容は正直いって正社員並みだ。
しかし、私以外の正社員は、もっと大変そうな仕事をしているという現実。
要するに、レベルが恐ろしく高い。
夫ですら、一目を置いている会社なのだ。
正社員を経験したことはないけれど、人生これまでの仕事の中で一番大変だということはこの一週間で体感している。
鏡の前、目の下のクマがすごい。
それでも、慣れないストッキングを履いて、今日も出勤しなくてはならないのだ。