子の子育ては、きっとこの大学受験を最期に節目を迎える。
金銭的にはまだ親としての責務を果たさなくてはならないけれど、成人になれば、学生であっても親と子の関係はアップデートされる。
それは、物理的に、という意味だ。
子の為に使う時間が少なくなるということ。
精神的な繋がりは切れることなど子が中年になったとしてもないけれど、そうではなく、身の回りの世話ー、子の為の送迎だったり友達関係の把握だとか、また朝昼晩の食事作りなど。
大学生になればバイトもするだろうし、ますます家にいる時間はなくなるだろうから。
実母と電話をした。
結局、実家に行くだけの気力がなく、電話で済ませたといった方が正しいか。
実父の持病の悪化により、検査、それに伴う入院と手術、その付き添いなど。
娘としてしなくてはならない。弟は、母が言うに今は忙しく無理だと言うのだ。
「あんたは休めるパートでしょ?あの子は無理なのよ。仕事が決まったばかりでおちおちお父さんのことで休ませるわけにいかないわ。」
社員ではない、弟が決まったというのはパートと契約社員の間といった仕事で、だが母が言う「一流企業」の子会社の工場勤務らしく、なんだかそのブランド名に誇らしげといった感じ。
「社員じゃなくてもね、さすが一流企業よ。有給もしっかり取れるし、福利厚生も充実しててね。ここでなんとか続いてくれれば。」
恐らくN恵の母ら親戚連中には、子会社ということは伏せ、会社名しか伝えない母の姿がありありと浮かんだ。
それは、私の時もそうだったからだ。私はそれが嫌で嫌で仕方がなかったのだが、弟はきっと何とも思わないだろうし、むしろ母の顔色など窺わずに嫌だと思ったら即刻退職だろう。
なので、父の病院の付き添い等は足が悪い母に代わり、行ける時は私が行く流れになった。
車を出せる訳でもないが、こうして段々と子の為に使う時間が減っていくのに対し、親の為に使う時間が増えて行くのだ。
パート探しをしながら、フルタイムで働くのは到底無理なのではないかと思う。
それは逃げではなく、自分の年齢と体力と物理的に使える時間について考えれば、どうしてたって抗えない事実に直面するのだ。