久しぶりに実家へ。
パートが週1という時間だけはある現実。だがパート探しは続いているし、とんとん拍子に決まればまた忙しくなる。時間のある今のうちに、実家にも顔を出せる時に出そうと思い立ち、実母にアポ取り。
実家だが、家を出た身。
実母だが、娘の私が突然家に来ることを嫌がる。事前にー遅くとも1週間前にはアポを取らなくてはならない。
外でランチやお茶であってもだ。準備が必要なのだ。
実家へ行くと、メイクばっちりの母が玄関に。父は通院の病院へ行き留守。
私が持って来たパン屋のパンでランチをする。新宿で買ったお高いパン。4つで2000円もした。
母は上機嫌に紅茶を淹れ、私に出す。しばらく他愛のない話。
だが、次第に雲行きが怪しくなってきた。
「私、節約に目覚めたの。」
「え?」
「一回の買い物、前は1万掛かってたけどね、気を付けてるわ。肉もね、国産にこだわらないでオージービーフとかだったら目を瞑ることにしてるの。」
父と弟と3人で酒も飲まないのに一か月の食費は12万掛かると言っていた母。我が家より何万も多い。
だが実際、この先大丈夫なのか不安になっていた。キリギリスではないが、認知症になったり病気で介護が必要になった時の蓄えはあるのか?弟はアテにならないし・・
今は夫婦の年金と弟が一応働いているのでその給料でやり繰り出来ているけれど、実際のところ余裕があるとは思えない。
だが問いただすことなど出来ず、勝手にはらはらしていた私だが、実際に母からそんなことを聞けば不安が現実になってしまったのだと気が重くなる。
「食べる?100均のお菓子も最近は美味しいのよ。」
驚愕した。
母は、とにかく高級志向で見栄を張るところがあるので、娘の私の前ですら100均や中国産などの食べ物を毛嫌いし、また冷凍の刺身だとか鮮度が悪いものも買うことが無かった。
特に、100均によく行く私のことなんて小馬鹿にしていたのだ。
ーちょっと、花子にそんなお菓子買うの?安いからってまずいのはやめなさいよ。
安かろう悪かろう精神。
なので、100均で口にするものを買う母なんて想像し難かったのだ。
高級ブランドのティーカップとソーサーの横に、100均のクッキーを置く。
そのアンバランスさに以前の母なら嘲笑するだろう。
その他、母の頭に白髪が目立っていたのが気になり、じっと見ていたら私の視線に気付いたようでこんなことを言う。
「今、グレイヘアに移行しようと思ってるのよ。美容院なんてこう暑くっちゃ行く気がしないし。それに髪にも悪いしね。あんたはまだ若いからやめた方がいいと思うけど私は70代だし、もういいのよ。」
母がもう何十年も通っている行き付けの美容院。そこに行くのはもう辞めたという。
個人経営の店で、価格表を以前見た時に驚いた。私が行く美容院より断然高い。
そして母は、2か月~3か月に一回とこまめに白髪染めをしに通い、カットだけではなくパーマもかけていたので美容院代にかなりかけていたはず。
だが、美容師とは同世代で話が弾み、毎回お喋りに行っているようでもあり、更に時々菓子折りなどの差し入れなどするくらいに親しい関係性だったのだ。
人付き合いに難ある母だが、対客として扱われることー、美容院という空間でお姫様扱いをされるということ、カラーの最中は美味しい珈琲も飲めて、しかもお茶菓子もいただくのと嬉しそうにしていたことを思い出すと、何とも言えない気持ちになった。
「美容院に行くのが面倒」という言葉で折り合いをつけようとしているが、金が無いのだ。
だがそれを私に悟られないように、精一杯の虚勢を張る。
「いいじゃない。似合ってるよ。」
娘として、そう答えるのが正解だろう。
母は、私の言葉を素直に受け取り、満足そうに紅茶を啜った。
実家の経済事情
