仕事から帰宅し、家に帰る早々ソファーでウトウト寝そべっていたところN恵から電話。
ラインではないので反射的に通話ボタンを押してしまった。
彼女は躊躇なく電話を寄越すことがある。私は従姉妹であってもラインでまずは電話しても大丈夫か?と聞く。この温度差は、互いの状況によるもので。
彼女はインスタを見ても分かる通り、日々色々な人と交流しており、対し、私の予定は仕事や病院くらいなものなので、俄然、暇人だと思われている節がある。
「ごめん、仕事?」
「いや。さっき帰って来たところだよ・・」
そう答えた瞬間、母から墓参りランチの日程についてN恵と話しておくように言われていたことを思い出した。パートが慣れるまでは正直勘弁ーそれに雨も続いているし・・なのでもうちょっと返事を待って欲しいと伝えると、N恵はそっちのタイミングに合わせるねということですぐに用件は終了してしまった。
ふっと生じたなんとなくの沈黙に、そわそわしてついどうでもいいことを喋ってしまう。
子のバイトがまだ決まらないことだとか、新しいパートが大変なこと、先日のランチでは語れなかったことを一気にばーっと喋り倒した。
N恵はふんふん相槌を打ってくれたが、なんだか心ここに在らずといった感じだった。
そしてまた少しの沈黙の後、思い切ったように、彼女から告げられた。
「うちさ、またレスになっちゃった・・」
N恵はもともと子どもを出産してからレスだったけれど、数年前に解消したと喜んでいたはずだ。
なんで今更?と思う一方、すっかり枯れ切ってるこちらとしては、正直どうでもいいお悩みカテゴリーの一つだ。だが、散々私の話を聞いて貰ったので、親身に聞く。
「実はね、株で稼いでるじゃん?今まで細かいことは伝えてなかったんだけど、あんまり儲けたから具体的な金額伝えたの。新車も買ったし、やっぱり夫婦だし隠し事もなんだかなと思って。」
「それがどうしてレスになるの?」
「だって、それからなんだもん。思い当たるのってそれくらいだし。彼のリアクション、なんか変だったし。一緒に喜んでくれるかなって思ってたのに。」
要するに、男のプライドをへし折られたのだろう。
それが原因なのか分からないけれど、稼ぎを具体的に伝えてから一切誘われなくなったという。
電話の向こうで半泣きになるN恵に、内心ではそんなすべてがうまくいくわけないじゃんーと意地悪な感情が湧く。
私なんていったい何年レスなんだろう。
子に兄弟をつくってあげたいと願っていた頃は真剣に悩んでいたが、もう成人となった我が子を前に、私達夫婦はただの同居人だ。
「言わなきゃ良かった。」
「でも、優しい旦那さんじゃない。家事だってしてくれるし仕事だって真面目だし。稼ぎが少ない訳じゃないでしょ。むしろまあまあ稼いでたんじゃない?」
慰めながら、ではN恵は普通のサラリーマン以上の年収を稼いでいるの?と妬みの感情が湧く。
段々うざったくなり、さっさとこの電話を終えてスマホで無料漫画の続きを読みたくなった。
「なんか、避けられてる気がする。前は、近付けば抱き締めてくれたりもしたのに。そういうのも無くなった・・」
「もういい年なんだし。単に仕事で疲れてるだけなんじゃない?しばらくしたらまた誘ってくれるって。」
人間は、強欲だ。
欲望は次から次に、一つ叶えばまた次の願いが出現する。そんなにうまくいきっこないのに。お金に困っていないこと、仕事だってその気になれば復帰出来る環境で、親兄弟や夫や義実家との仲も良好で、副業は本業並みに稼いでいて、子ども達は賢くてーなんでもあるじゃないか。これ以上何を求めるというのか。
「ごめん!花子が帰って来た~またスケジュール分かり次第連絡するね!」
まだ話し足りないようなN恵を突き放す。
そんな贅沢な悩み、近所のママ友にでも話せばいい。
だって、ママ友だってリアル友達だって数えきれないくらいいるんだから。それもまた自分と比べれば妬みの種だ。
なんで血が繋がっているただそれだけで私が彼女のゴミ箱にならなければならないの?
彼女といると、つい無いものを数えてしまう。
そうして比較しては落ち込む。すべてを知っている訳でもないのに。
そして一つ言えることー。彼女は私を羨んでいない。むしろ、昔から可哀想だと思っているはず。
話相手がいないだろうから相談してあげているーそんな上から目線の空気を出すことがある。
それが今日は一段と鼻に付いたのだ。
贅沢な悩み
家族