くだびれた。
疲れたというよりも、くだびれた。
仕事は相変わらず微妙。それでもなんとか小川さんにフォローして貰いながらの日々。
しかし、今日は違った。
小川さんが体調不良でお休みだったのだ。
隣にいるはずの小川さんがいないのを気にしつつも、朝礼が終わり、今日もスピーチは回って来なかったと安堵していたら、リーダーから呼ばれた。
ドキドキしながら、彼の席に行くと、今日は小川さんが休みだと言う。
持っている仕事を聞かれ、その進捗も聞かれた。
しかし、どれもこれも単発のものだし、進捗なんてない。それに昨日なんて彼女から仕事らしい仕事を振られてもいなかったのだ。
「小川、もしかしたら今週いっぱい休むことになるかもしれないんです。発熱したらしいんですよ。コロナの検査をこれから受けに行くって。だから、芝生さんに色々やって貰うことになるかもしれないんだけど。」
リーダーは、当たり前のように小川さんの持っている仕事をそのまま私にシフトしようとしている。
彼は、私のレベルを知らないのだ。勘違いされたままだとまた自分の首を絞めることになる。
「あの、私、小川さんの仕事なんて把握出来ていません。いつも彼女から作業的なことは頼まれていますが、本当にそれだけですし。」
「えー・・例えばどういうことしてます?」
ただでさえ人に説明をするのが下手な私。それを上司ーしかもリーダーにとなると、緊張もあり更に分かり辛いものになる。
だが、リーダーは私のたどたどしい説明を遮ることなく、根気強く聞いてくれた。
「そうですか。じゃあ、データコピーは一人でも出来ますか?」
小川さんに一度だけ隣に座って貰い説明を受けながらした作業のことだ。
ただのコピーではない。ある特定のツールを使ってやるのだけれど、その手順は複雑でノートを見ながらでも自信が無い。
それに、もしコピーを間違えたら、そのデータを使う人達の更にデータも壊してしまうことになるかもしれない。
そんなことを小川さんが言っていたのだ。意味がよく分からないけれど。
「すみません、自信が無いです。一人では・・出来ません。」
「そうですか・・じゃあ、今日はこれまでの業務の整理をして貰って構いません。また明日以降は考えます。」
結局今日は、これまでの業務をノートにまとめたり、また振り返ったり、たまった機密文書のシュレッダーだとか裏紙で電話メモを作成したりだとかの雑務をしただけ。
給料泥棒と思われているかもーいや、私がどんな仕事をしているかなんて他の人達は知らないし興味もないだろう。
リーダーだけは、パートの私が暇にならないようにと仕事を振ろうとしたものの、振る為の説明だったり人をあてがったりの時間すらなく、放置するしかなかったようだ。
昼のチャイムが鳴る。前方と斜め前の男性は昼食なんて頭にないのか、怖い顔をしてPC画面を睨んでいる。
何人かは社食へ向かう。私もその波に乗るように席を立つ。
「お先に失礼します。」
一応、近くの2人に向かって挨拶をする。
彼らとは、朝と帰りの挨拶だけは欠かさない。それ以外の会話なんて皆無だけれど。
「お疲れさまです。」
「お疲れさまです。」
2人とも、一応、顔を上げて挨拶はくれるがその瞳の奥の感情が見えない。
私も、笑顔をこわばらせながらその場を後にした。
明日も仕事、小川さんは休みだろうか?
放置されてやることがないのも辛い。
身の置き場がどこにもないから。