沈黙の席

会社 仕事
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 別にいい。
淡々とこなすだけ。
朝いち、小川さんから頼まれた登録作業は、入社してからすぐに手順を習ったものなので既に習得している。
ただ、自席のPCではない、奥まったフロアにある専用PCを使う必要があり、そこは別会社ーつまりは協力会社の人々が使っている。
この職場の組織図のようなものを見たことがあるけれど、要するに、別会社から出向して来た人々のフロア。
挨拶をした方が良いのか迷いつつ、皆、それどころではない感じなので目が合った人にだけ会釈して席についた。

 まだまだ間違えやすい部分は自作のマニュアルノートを見ながら行う。
午前中勤務、その時間内に与えられた作業。
ボリュームは、なかなか。ぼーっとしている暇はない。要するに、適切な作業量。
誰からも話し掛けられない、こちらからも話すネタがない。
目の前の作業にただただ集中する。
このフロアから、小川さんらが遠目によく見える。
彼女の隣にいる派遣さんは、バリバリ業務をこなしている感じだ。
なぜなら、彼女以外の男性社員からも何か頼まれており、談笑すらしていた。
私より後に入って来たのにー
入社当初、彼女はもっと事務的で近寄りがたい空気を全面に出していた。私同様、彼女も人付き合いが下手なのかもと思って勝手に親近感すら湧いていた。
なのにー、根本的に彼女と私は違った。有能か無能かという点において。
彼女はここで「必要とされる人員」だということ。求められる仕事を完璧にーいや、それ以上にこなせる人材だということ。社員ではない、外部の派遣という立場をわきまえ、決して出しゃばらない。それが逆に、彼らからしたら信頼関係を得ているようだった。


 自分の作業を終え、正午。
小川さんは打ち合わせなのか席におらず、メールで作業完了しましたと送信し、ひっそりと退社した。
誰とも会話をしない3時間。たった3時間だけれど、どっと疲れた。
来週の作業は何だろうか。簡単な誰にでも出来る作業が私を待っている。





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