父の手術日当日、弟が来た。
てっきり仕事を休んで来てくれて悪かったなーと思ったのに。
「あぁ、辞めたよ。あそこは駄目だ、頭おかしいヤツばっか。」
開いた口が塞がらなかった。
しかも、退職したことは親にはまだ言わないでくれと口留めされた。
「まだ入ったばかりなのに、私達の為に休んでくれて、本当にあの子は優しいわ。」
母が疑うこともせず私にこう言った時、本当のことをぶちまけてやろうかと怒りが湧いた。
ただその怒りは嫉妬半分もあるのだ。
私だって、家のことやパートといえど仕事を休んで来たのに。娘だから当たり前ってことなのか?私に優しい子ーなんてそんな言葉を掛けてくれたのはいつだったっけ。どんなに記憶を遡ってみたところで「可愛くない子」というネガティブな台詞が蘇り、それを上書きするポジティブな台詞は思い出せない。
父の手術は無事成功し医師の説明を皆で受けた後、まだ麻酔が効いて眠っている父を前に弟が言った。
「あー、腹減った。なんか食いに行こうよ。」
私も母も食欲なんて無かったが、弟の希望でファミレスへ。ちょっとお高めの店。
私はランチセット、弟はランチメニューではないグランドメニューから。しかもサーロインステーキの300gで値段がなんと4000円以上。それにライスやオニオンスープのセットを頼み、尚且つ別に季節のフルーツパフェまで。
「運転がなければ一杯やりたかったよ。」
隣のテーブルで、昼間から優雅にワインを飲んでいる主婦軍団を横目にそんなことを言う。
もしアルコールもOKならいったいファミレスに一人でいくらかかったか。無職の分際で・・
「姉さんも、あんな風にママ友達と日中優雅にやってんの?」
「私は今ダブルワークしてるし、そんな暇ないわよ。」
「カズヒロさんも、女房をこき使って嫌になるわね。自営が成功してたらあんたは社長夫人なんだし、そんなあくせく働く必要ないものね。いったいどうなっちゃってるの?仕事二つも掛け持ちなんて、あー、失敗だったね、この結婚は(笑)」
「何考えてるのかあの人分からんからね。案外あっちも失敗だと思ってるかもよ。俺、あの人から話し掛けられたこと皆無なんだけど。俺の存在、あの人の人生から抹消されてるっぽい(笑)(笑)絶対俺、下に見られてるわ。」
あながち間違えではない、核心をつく弟にドキリとさせられる。
それにしても、ペラペラとよくしゃべるもんだ。なのに肝心なことは口に出さない。ズルい男なのだ。
会計になり、母と2人きりなら私が出す流れなのだが、敢えてレジの前でお腹が痛いと嘘をついてトイレへ逃げた。しばらくして戻ると、既に会計は終わっており、弟が払ってくれたのだろうとお礼を言うと、
「いいのよ、ここは私が出したから。あんたにはいつもご馳走してもらってるし。」
母が財布をバッグに仕舞うところだった。
弟は当然といわんばかりに母にご馳走してもらうのだが、私はなんだか落ち着かなかった。ちなみに私の頼んだランチセットは日替わりセットで900円ちょっと。ドリンクバーも付けなかった。
ファミレス会計1万越え
