バルコニーから、猫の鳴き声が聞こえた。
なんだろうと思い、サンダルを履いて外に出て、声のする方を探す。
お隣との仕切り板、その向こう側からだ。
ーミャー、ミャ~
ここは1階ではない。猫が勝手に上がって来れる場所ではない。
なぜ、猫の鳴き声が聞こえるのか?
すると、ガラッとお隣の窓が開く音がし、針金さんの声が聞こえた。
「駄目よ、外に出たら危ないじゃない。おいで!」
明らかに、猫に話し掛けている。
だって、そんなセリフをご主人に言うはずない。
しかし、実際それを目にしていない、声だけなので確証は持てない。
ガラガラと窓の閉じる音がしたと同時に、猫の鳴き声はピタリとやんだ。
ここは、ペット禁止の集合住宅。
なのになぜ?
見付かれば、退去を迫られるはず。掲示板にも頻繁に貼り紙がしてあるのだ。
野良猫にすら、餌をやるなーと。
以前、針金さんと野良猫を可愛がっていたことがあるけれど、あれだってここの住人であればNG行為。
だが、一定数の猫好き住人からは見てみないふりというか、グレー案件でもあった。
私が訴えれば、即刻、管理組合からクレームが入るだろう。
ただ、私個人でいえば針金さんに恨みもないし、むしろ程良い距離感の住人でもある。
しかし、猫嫌いの夫に見付かればアウト。バルコニーで煙草を吸った時にあの鳴き声を聞いてしまえば終わりだ。
一言、針金さんに忠告した方がいいかもしれない。
ーこんにちは、先程、猫の鳴き声がお宅のバルコニーからしました。勘違いだったら御免なさい。ただ、うちの主人が猫アレルギーなもので、もしお宅の猫ちゃんに感付いてしまったら面倒なことになりそうなので。申し訳ありませんが、なるべくバルコニーに出すのは遠慮して貰えませんか?
ラインだと長文になってしまったけれど、直接、面と向かって言うべきだったかもしれないけれど、その勇気はなくでも一刻も早く伝えなければと焦ってメッセージを送ってしまった。
割とすぐに既読になったものの、まだ返信はない。
クレームと思われたのか?また、後先考えずに先走ってしまったか?
それにしても・・なぜ猫がいるのか。これ以上、面倒ごとは勘弁して欲しい。