合格発表

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都立高校、合格発表。
インターネットで合否を確認するなんて、私の時代では考えられなかったことだ。
ボタン一つで、明暗が分かれる。
寒い中、学校まで出向いて掲示板を見る必要もなければ、もし不合格だったとして、横目で合格を喜ぶ他の受験生らを見ることもない。
これが良いのか悪いのか、いまいち実感がわかないのだ。
それでも、発表時間が近付くと緊張した。
私も子も、なぜかその話題を避けるかのように、お互い同じ部屋にいるのにテレビにうつるニュースの話題を上の空ながら話したり。
夫は、どうしてもその日は外せない商談があり、子には一言優しい言葉を掛けて出て行った。

「大丈夫、合格するから。」

時計の針が待ちに待ったような、来て欲しくないような、しかしその時刻を指した瞬間、子は震える手でスマホのログイン画面に受験番号やIDを打ち込んだ。
駄目だったらーこんな言葉を掛けよう、あんな言葉を掛けよう、どうしてもネガティブな方に気持ちが傾く。

「どうしよう、押せない。ママ、押して。」

子がすがるように私を見上げる。最近では見せなかった、頼りない子どもの顔。随分遡って、幼稚園時代の我が子を思い出した。

「頑張ってきたんだから、どっちに転んでもやり切ったよ。大丈夫、勇気出して押そう。」

子は、すーっと息を深く吸い込んだ後、勢いをつけてスマホのボタンを押した。

「合格」

その文字が目に入り、声にならない声を上げた。
子も、信じられないという風に、喜んでいるのかいないのか、ふわふわした顔で画面を見つめている。

「受かったよ!受かった!!おめでとう!!!」

少し経って、自分が涙声になっていることに気付く。
もう何年ぶりだろうか、娘と抱き合った。すっかり大人になったかと思った娘の体はおもいのほかあたたかく柔らかかった。

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