名前の付かない感情

ハートの雲 週3パート事務
週3パート事務仕事
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 今日、この課で初めて業務外で話し掛けられた。
なんてことのない会話。

「ここで働かれてどれくらいになるんですか?」

「えっと、3年目です。」

「じゃあ私よりも先輩ですね。」

 協力会社の男性、丸山さん。通称「丸さん」だ。
丁度、社員が出払っており、私と丸さんだけになった時。席も離れているし、これまでもこういう機会は何度かあったが、特に接触はないままだった。
しかしこの日は、私のデスク横にあるプリンターが紙詰まりを起こし、彼が何かをプリントしていたようで、私がその詰まりを直してもう一度用紙をセットし、スタートボタンを押したところ、プリントアウトした用紙を取りに来た彼がそれに気付いたことで会話が生まれた。
お礼ついでの雑談。それでも嬉しかった。大袈裟だけれど、人間として認められた、そんな気分。
彼は、私と同世代かちょっと年上のようで、だが威圧感はまるでなくてゆるキャラのよう。小太りで、メガネを掛けており、昼休みにはデスクで奥さんの愛妻弁当を食べながら週刊少年ジャンプを読んでいる。読み終えたら、若手社員の村上君にあげているようだ。年の差を越えて、仲良く漫画の話をしている彼らは微笑ましい。
他の課員からも「丸さん」と呼ばれ親しまれているけれど、仕事面では佐藤課長からの厚い信頼を受けており、課員からも一目を置かれる存在だ。
そんな彼から話し掛けられ、素直に嬉しかった。

「芝生さん、いつも集中して仕事しているようだけれど、あんまり根詰めず適当にやったらいいんですよ。」

 彼が一瞬、井浦新に見えた。
角度によっては、そう見えなくもない。いや、痩せていたら、瓜二つなのでは?
見た目とは違い、声のトーンに落ち着きがありソフトなこともあって、本当にそう見えた。


「緊張しちゃって。前の課でもミスが多かったし飲み込みも悪くて、本当に皆さんに迷惑を掛けていたので。」

「大丈夫です、みんなミスはしますよ。あなただけじゃありません。ただ、ミスを隠したり誤魔化したりするのがみんなは上手いだけです。」

 どこまでも、私を楽にさせようとする言葉にうっかり涙ぐみそうになり、慌てて作り笑いをする。
社員が会議から戻って来たタイミングで、「では」と、彼は自然にその場を離れた。
私はなんだかいけないことをしているような、妙な気分になり、そわそわと落ち着かないままいつもの入力作業の続きに戻った。

仕事もロクに出来ない癖に、何を浮ついているのか。いや、そういう類いじゃない。
この気持ちに名前を付けるとしたら、なんだろう。

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