失せ物

パール 生活
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 何もする気になれない。
夫が新婚旅行の時に買ってくれたイヤリングを片方ではない、両方失くした。
今日のパートは特にバタバタで、しかも中山さんに誤解された。
調べものをしていたのだけれど、間違えてヤフーニュースをクリックしてしまい、それを見られた。

「ちゃんと仕事して下さいよ。」

 言い訳をする間も与えられず、彼は打ち合わせに出て行った。
鬱々としながらも、午前の作業を終えて退社。外に出たら、今度は苛々した。
むしゃくしゃして、自転車に乗りながらボサボサになった髪を信号待ちの間にまとめ直したことは覚えている。
そして自宅に戻り、いつものようにイヤリングを定位置に仕舞おうと耳元を触ると、無いのだ。
泣きそうになりながら、記憶を巻き戻す。
やっぱり、あの信号待ちの時だと思い、昼も食べずに再び自転車に乗り、帰って来た道を辿った。
人通りの多い道。よりによって。
必死になって探すけれど、無い。そこから職場近くまで自転車を引きながら、下を見ながら歩く。
駄目だー、無い。もう無理だ。
とぼとぼと自宅に戻った。


 思い出のイヤリングだ。
今は冷え切った夫婦仲であっても、あの頃は恐らく私達の頂点だった。
結婚指輪同様、夫が私の為にお金を使ってくれた唯一の物なのに。
せめて片方でも残っていれば同じ様なデザインのものを探して付けることも出来るのに。
あのイヤリングは、小さなパールがついており、当時でいえば数万円したのだと思う。
今では手の届かない、18金のもの。 
この仕事につくようになり、オフィスカジュアルということもあって、何となく耳元を飾りたくなったのが運のつき。
今日は、なんだか本物のイヤリングを付けたい気分で、しかし自転車に乗るリスクを考えなかった私は大馬鹿野郎だ。


 夫も私にプレゼントしたことを覚えているだろう。
なにせ、普通の時ではない新婚旅行の時のものなのだ。
ふいに、聞かれたらどうしよう。
余計な心配事と、やるせなさ。
うまく気持ちが切り替えられない。家事も手に付かない。





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